ソーシャルレンディングの利益には「所得税」と「住民税」がかかります。
これを理解しておかないと、思ったよりも稼げない罠にはまったり、うっかり確定申告せずに過ごして脱税だと見なされ、追徴課税で恐ろしい金額を請求されることがあります。
得するためのソーシャルレンディングで損をしないためにも、税金の知識はとても大切です。
この記事ではソーシャルレンディングにかかる税金や、正しく節税する方法について解説していくので、利益を守るために役立ててください。
目次
ソーシャルレンディングには税金がかかる
多くの投資と同様、ソーシャルレンディング投資には税金がかかります。
税金がかかるのは利益が発生したときで、次のいずれかです。
- 「分配金」を受け取ったとき
- キャッシュバックなどの「一時金」を受け取ったとき
ただ、キャッシュバックなどはキャンペーン時の限定的な利益であり、最近のソーシャルレンディング市場ではキャッシュバックキャンペーン自体あまり見かけません。
そのため、ソーシャルレンディングにかかる税金といえば「分配金を受け取ったときの税金」を指すことが多くなっています。
所得の種類
ソーシャルレンディングの利益や、サラリーマンの方が会社からもらっている給与、自営業の方が稼いでいる収入などには、税金がかかります。
仕事や投資で利益を得たら、一定の割合で所得税を支払わなければならないことはご存知のとおりでしょう。
ややこしいのは、所得の種類によって税金のかけ方や税率が異なることです。
所得は次の10種類に分けられ、種類によって税金の仕組みも異なります。
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このうち、ソーシャルレンディングの利益は種類によって「雑所得」または「一時所得」に分類できます。
ソーシャルレンディングにかかる税金を理解するには、「雑所得」「一時所得」というキーワードを押さえておいた方がスムーズなので、まずはこれらの意味について解説していきます。
雑所得
雑所得は、他の9種類の所得のいずれにも分類できない所得のことを指します。
ソーシャルレンディングの場合、「分配金」が雑所得に該当します。
他には、公的年金や副業の収入(アルバイトなどの給与所得を除く)が該当します。
仮想通貨の売買による利益も雑所得です。
つまり、他の9種類の所得に当てはまらない所得を合算し、「雑所得」にまとめるイメージです。
一時所得
一時所得は、上記の1から8までの所得に該当せず、しかも労働の対価など営利目的で得られた所得でもなく、継続して得られるものでもない一時的な所得のことです。
ソーシャルレンディングで一時所得があることは稀ですが、キャッシュバックキャンペーンなどで受け取ったお金があれば一時所得になります。
他に一時所得になるのは、宝くじの賞金、競馬や競輪の払戻金、生命保険の一時金、損害保険の満期返戻金などがあります。
FPである筆者はしばしば「退職金は一時所得ですか?」と聞かれるのですが、これは「退職所得」に該当します。
所得に種類も異なりますし、そもそも労働の対価という性質があるので、一時所得ではありません。
一時所得は労働の対価ではなく、かつ1回きりしかもらえない一時的な所得のことです。
「総合課税」と「分離課税」
所得税の課税の方法には、「総合課税」と「分離課税」の2種類があります。
給与所得や事業所得は総合課税なので、あまり意識したことはないと思いますが、実はみなさんも総合課税で税金を徴収されているのです。
投資の利益にも税金がかかりますが、投資の種類によって「総合課税」の場合と「分離課税」の場合があります。
これらの違いやメリット・デメリットを理解し、自分の状況に当てはめることで有利な税率を選べるので、節税することが可能になります。
この章では、総合課税と分離課税の意味や特徴について解説していきます。
ちなみに、ソーシャルレンディングの利益は「総合課税」です。
総合課税とは
総合課税とは、個人の1年の所得を合算して課税所得を計算し、累進税率をかけて課税することです。
基本的にはすべての所得を合算しますが、後述する「分離課税」の対象となる種類の所得は除きます。
総合課税の対象となる所得は、次の7種類です。
総合課税の対象となる所得 |
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また、累進税率は次のとおり決められています(「所得税の税率」(国税庁))
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え~330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え~695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え~900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え~1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え~4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
所得が上がるほど、つまり稼ぎが良い人ほど所得税の税率が高くなっていることがわかります。
計算方法を解説するために、年間の所得が400万円の人の場合を考えてみましょう。
給与やソーシャルレンディングの利益などをすべて合算した所得が400万円であるという意味です。
上表によると「330万円超え~695万円以下」の範囲に該当するため、
- 税率:20%
- 控除額:42万7,500円
であることがわかります。
この人が支払う所得税は、次の数式で計算できます。
- 所得税=所得 × 税率-控除額=400万円×20%‐42万7,500円=37万2,500円
ご自身の所得税がどれくらいになるか気になる方は、同じように計算してみてください。
分離課税とは
分離課税とは、特定の所得については他の所得と合計せず、その所得だけに決まった税率をかけて課税することです。
分離課税の対象となるのは次の6種類で、これらは総合課税とは分けて課税されるのです。
分離課税の対象となる所得 |
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ちなみに、「配当所得」は総合課税の対象とすることもでき、確定申告をするときに総合課税と分離課税のどちらで課税するか選ぶことができます。
これは節税につながるため重要なので、後ほど詳しく説明します。
「所定の利子所得及び一定の先物取引による雑所得等」に含まれる代表例が、FXの利益です。
これは「先物取引による雑所得」になるので、一般の雑所得と異なり、分離課税となります。
非常にややこしいですよね!
ソーシャルレンディングの分配金も「所定の利子所得及び一定の先物取引による雑所得等」に含まれそうな気がするかもしれませんが、現状での取り扱いは「雑所得」なので、分離課税は使えません。
ソーシャルレンディングの課税方式について、次の章で詳しく見ていきましょう。
ソーシャルレンディングは「総合課税」
先ほどお伝えしたとおり、ソーシャルレンディングの利益は「雑所得」や「一時所得」になるため「総合課税」の対象です。
したがって、給与所得や事業所得と合算して累進税率をかけます。
つまり、ソーシャルレンディングの利益が少なくても仕事の収入が大きければ、ソーシャルレンディングの利益への税率も大きくなります。
逆もしかりで、仕事の収入が少なくてもソーシャルレンディングの利益が莫大になれば、収入への税率も大きくなってしまいます。
総合課税なので、基本的には稼げば稼ぐほど所得税が膨らんでいってしまうタイプの所得です。
非常に節税しにくいため、少しでも税金を抑える節税方法を学んだ方が良いでしょう。
節税方法は後で紹介するので、次は「所得税」と「住民税」の計算方法を理解してください。
ソーシャルレンディングの税率
ソーシャルレンディングでかかる税金の税率は、「所得税」と「住民税」で異なります。
それぞれ分けて解説しましょう。
所得税の税率
ソーシャルレンディングにかかる所得税の税率は「総合課税」のところで紹介した「累進税率」の表のとおりです。
1年間の所得金額に応じて、5%から45%です。
所得税は累進課税であるため、収入が大きくなればなるほど税率が大きくなり、税金額が増えていくことが特徴です。
住民税の税率
ソーシャルレンディングにかかる住民税(市町村民税+道府県民税)の税率は、自治体による差は多少あるものの、おおむね10%前後となっています。
住民税の仕組みは次のようになっています。
【住民税の仕組み】
- 所得額に関わらず一律でかかる「均等割額」
- 所得額に応じて税額が変わる「所得割額」(課税所得×約10%)
よく「住民税の税率は自治体によって大きく違う」と言われることがありますが、「大きく」は異なりません。
上記の「均等割額」は一律ですし、住民税額の大半を占める所得割額の標準税率はだいたい10%で、自治体による差は0.1%から2%といったところです。
そのため、次のように覚えておくと良いでしょう。
- 住民税は自治体によって多少異なるが、大きくは変わらない
- 住民税は収入が低かろうが高かろうが10%前後かかる
ソーシャルレンディングの納税と確定申告
ソーシャルレンディングの税金を納める方法は、「所得税」と「住民税」で異なります。
それぞれ解説していきましょう。
「所得税」の納税・確定申告
ソーシャルレンディングで分配金を受け取るとき、あらかじめ20%の税金が差し引かれています。
実は、このとき差し引かれているのは「所得税」のみです。
つまり、ソーシャルレンディングにかかる「所得税」は前払いで、1年間の所得額が確定した後に、本来の税率で計算をして納税を済ませるという仕組みです。
「会社員の給与収入と同じ」といえばわかりやすいでしょう。
会社員の人は、毎月の給与から一定額の所得税が差し引きされています。
そして、1年間の収入(所得)額が決まる年末に「年末調整」をして本来の納税額を計算し、納税を完了させるという仕組みです。
給与の場合は会社が年末調整をしてくれるため、サラリーマンは何もすることがありません。
しかし、ソーシャルレンディングには年末調整という便利な仕組みはありません。
そのため、利益が出たら自分で確定申告を済ませ、納税を完了させなければならないのです。
ただ、すべての人が確定申告しなければいけないわけではありません。
確定申告をしなくても良い場合もあります。
確定申告しなくても良いケース
- 会社員の場合、給与所得や退職所得以外の所得金額(ソーシャルレンディングの場合、雑所得金額や一時所得金額の合計額)が20万円を超える場合
こちらに該当する場合でも、所得税の税率が20%以下の人は確定申告をしましょう。
確定申告をして正しい所得額を申告すれば、払いすぎた所得税を取り返すこと(還付申告と呼びます)ができる可能性があるからです。
確定申告期間は毎年2月16日から3月15日までですが、還付申告は過去5年間さかのぼることができます。
くれぐれも忘れないようにしてくださいね!
「住民税」の納税・申告
「住民税」の納税は、原則として後払いです。
ソーシャルレンディングにかかる「住民税」についても、他の所得金額と合算して後払いすることになっています。
住民税の申告は、所得税の確定申告と同じ2月16日から3月15日までの期間にすませる必要があります。
ただし、所得税の確定申告をすれば、そのデータが税務署から各地方自治体に連携されるため、住民税について改めて申告する必要はありません。
住民税の申告が必要なのは、確定申告をしていない場合だけです。
住民税の申告が必要なケース
- 給与所得や退職所得以外の所得金額(ソーシャルレンディングの場合、雑所得金額や一時所得金額の合計額)があるが、確定申告はしていない場合
住民税は、「年間20万円以上」といった所得税のような非課税特例はありません。
分配金や一時金などの合計額が20万円以下でも、住民税の申告は別途必要なので気をつけてください。
また、住民税の申告先は税務署ではなく、各地方自治体の市府民税科です。
窓口は自治体により異なりますので、別途確認のうえ申告に行きましょう。
各投資手法別の税金取扱い
ソーシャルレンディングの税金取扱いは、株式投資や投資信託といった既存の投資法とは異なります。
何がどう違うのか、各投資手法別の税金取扱いについて解説しましょう。
投資手法 | 所得区分 | 課税方式 | 税率(※) |
---|---|---|---|
ソーシャルレンディング・仮想通貨 | 雑所得
一時所得 |
総合課税 | 所得税:5%~45%
住民税:約10% |
株式投資・投資信託 | 譲渡所得
配当所得 |
分離課税
※総合課税も選択可 |
所得税:15%
住民税:5% |
FX・先物取引 | 雑所得 | 分離課税 |
※所得税は、所得税額にプラス復興特別所得税2.1%が掛け合わされます。
ソーシャルレンディングと税金の取扱いがまったく同じなものは、「仮想通貨」です。
仮想通貨もソーシャルレンディングも、投資市場が始まって10年ほどと歴史が浅く、まだまだ発展途上にあります。
そのため、他の投資に比べて税制度は整っていないのが現状なのです。
今後、ソーシャルレンディング市場が活発化してくれば税制が整う可能性があります。
今後の市場発展や税制に注目していきましょう!
ソーシャルレンディングはNISAやつみたてNISAの対象外
残念ながら、現在ソーシャルレンディングの税金について優遇される制度はなく、NISAやつみたてNISAといった非課税制度も対象外です。
NISAやつみたてNISAとは、所定の条件を満たせば投資の利益が非課税になる税優遇制度で、投資信託などが対象になっています。
ソーシャルレンディングの利益には15%~20%の税金がかかるため、これらの税優遇制度があればありがたいものです。
しかし、先ほどもお伝えしたように、ソーシャルレンディングはまだ新しい投資手法であり、発展途上ということもあり税制上は他の投資より不利な点が多いのです。
ただ、国が「貯蓄から投資へ」を推奨する流れは今後も続くことが予想されます。
これからソーシャルレンディングの認知度が高まり、一つの投資手法として確立されるようになれば、税環境はもっと改善されるでしょうし、なんらかの優遇措置が出てもおかしくはないのではないでしょう。
ソーシャルレンディングでの節税方法・税金対策
ソーシャルレンディングの「分配金」や「一時金」には、「総合課税」で「所得税」が課税されることをお伝えしてきました。
総合課税に含まれる場合、それ自体を節税することは非常に難しいです。
税金を減らすには、利益も小さくするくらいしか方法がないからです。
儲けを出すためにソーシャルレンディングをやっているのに、利益を小さくするのは本末転倒ですよね。
そこで見方を変えて、他の所得で節税する方法を考えていきましょう。
次の3つの方法のうち、1つめはソーシャルレンディングの利益を圧縮する方法ですが、残りの2つは他の節税を使う方法です。
節税方法
- 経費を計上する
- 他の雑所得と損益通算する
- 分離課税に移せる所得を移す
方法①:経費を計上する
ソーシャルレンディングの利益には税金がかかりますが、より正確に言うと「経費を差し引いて残った利益に税金がかかる」です。
したがって、経費があるなら計上することで、残った利益を少なくして節税することができます。
ソーシャルレンディングの経費と見なせるものには次のようなものがあります。
- 入出金の手数料
- 書籍代
- 通信費の一部
- セミナーの参加費
- 交通費
これらの経費が発生する場合、領収証などを保管しておき確定申告で経費として申告できるようにしておきましょう。
方法②:他の雑所得と損益通算する
雑所得は、プラスとマイナスを相殺する「損益通算」ができます。
損益通算とは、ある期間内の「利益」と「損失」を相殺することです。
例えば、ソーシャルレンディングでプラス10万円の利益が出ていれば、これに課税されるように感じますよね。
しかし、もし仮想通貨で9万円の損失が出ていたら、損益通算して雑所得は1万円となります。
1万円のみに対して税金がかかるため、かなりの節税になります。
ソーシャルレンディングで貸し倒れなどがあって損失が出た場合にも、損益通算を使えば税金を減らすことができます。
公的年金などの雑所得がある場合、ソーシャルレンディングの損失で相殺して、雑所得を小さくすることができます。
方法③:分離課税に移せる所得を移す
株式投資をしている人は、配当金の課税方式の選び方に気を付けることで、税金を減らすことができます。
先ほどお伝えしたように、配当金(配当所得)は「総合課税」と「分離課税」の好きな方を選べるからです。
配当金を「分離課税」で課税する場合、所得税率は15%に固定されます。
したがって、収入が多くて総合課税の税率が20%を超えてしまうという方は、配当金を切り離して分離課税にした方が良いことになります。
「総合課税」だと配当金の税率も20%を超えますが、「分離課税」なら15%で済むからです。
さらに、総合課税される所得額も配当金の分だけ少なくなるので、税率が下がる場合があります。
配当金を「総合課税」にするか「分離課税」にするかの目安は、総合課税の所得が695万円を超えるかどうかで見ることが多いです。
細かい個別の事情はここでは割愛しますが、一般的には配当金は
- 695万円以下:総合課税
- 695万円を超える:分離課税
を選ぶと、節税効果が高まります。
まとめ
ソーシャルレンディングの税金について解説しきました。
大切なポイントは次の6点です。
ポイントのまとめ
-
- 税金がかかるのはソーシャルレンディングの「分配金」と「一時金」
- 税金の支払は
- 所得税:前払い(源泉徴収)
- 住民税:後払い
- 「所得税」の確定申告をすれば「住民税」の申告は不要
- 税金額は給与など他の所得と合算して計算される「総合課税」
- 税率は
- 所得税:5%~45%(累進課税)
- 住民税:約10%
- 税金の取扱いは他の投資手法に比べて不利な点が多い
ソーシャルレンディング投資を始めるうえで、税金の知識は必須です。
解説したポイントを踏まえ税金について理解したうえで、投資を始めるようにしてくださいね。